医師不足や医療の偏在、増え続ける医療需要に対して、AIの医療分野への応用により問題を解決しようとする試みがますます進められています。
その一例としてAI病院がありました。日本の医療AIの旗手になっていくAI病院について、詳しく知りたい方は「AI病院とは? 政府の進める医療×AI」をご覧ください。
今回はそんな医療AIの中で、具体的なAIの利用方法として、手術・医薬品開発を中心に、AI×治療の世界をまとめていこうと思います。
また治療分野以外の具体的な利用方法としては「AI医療 ~AI×検査編~」「AI医療 ~AI×介護編~」をご覧ください。
国が支援する重点6領域
AIはさまざまな領域に導入可能ですが、開発競争が激化する中無駄な投資はできません。厚生労働省は「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で、重点領域を6つ挙げています。
- ゲノム医療
- 画像診断支援
- 診断・治療支援
- 医薬品開発
- 介護・認知症支援
- 手術支援
今回は「3.診断・治療支援」や「4.医薬品開発」「6.手術支援」に関連した「検査分野」におけるAIの利用を中心にまとめていきます。
AI×治療の世界
医薬品開発
最先端の医薬品は高価なものも多く、中には数千万円に及ぶものもあります。その主な原因は開発コストの高さです。
新薬開発の過程では、無数のたんぱく質を検証し、病気の原因物質を特定します。その後、結合する可能性のあるタンパク質を絞り込んできます。この病気に聞く化合物を見つける過程が非常に困難で、その成功率は3万分の1と言われています。
このたんぱく質の検証と絞り込みはAIの得意分野です。加えて臨床試験のプロセスも自動化するため、大幅な効率化が可能になります。
AIの医薬品開発利用はまだ研究段階ですが、3割以上のコスト削減と期間短縮が可能になっています。
PillPack ~流通ビッグデータを活かした薬品販売~
2018年、Amazonは処方箋のインターネット販売会社の「PillPack」を10億ドルで買収しました。
PillPackは複数の処方箋を出されている顧客向けに、毎回飲む分の薬を小分けに包装して宅配してくれるサービスを行っています。服薬の管理が簡単になり、わざわざ薬をもらいに薬局に行く必要もありません。
PillPackの買収によって、Amazonの広大な配達可能エリアでこのサービスが利用可能になっていくでしょう。また、医薬品購買のデータをAmazonがAIで分析することで、感染症の流行を最速で察知するような利用方法が可能になるかもしれません。
日本では医師の処方箋が必要な薬はまだインターネット経由での購入は出来ません。制度の変化が起きるまでの間、アメリカの様子を見守りたいですね。
手術支援
近年よく聞く「ロボット手術」という言葉に対してどのようなイメージを持っているでしょうか?全自動のロボットが病気を治してくれそうな気がしますが、現在利用されている手術ロボットはそのようなものではありません。
現在の手術ロボットは「手術支援ロボット」と呼ばれ、ロボットの複数のアームを人間が操作しながら手術するものです。ブレがなく、関節の動きが自由で、肉眼では見えないような角度・拡大度で手術を行うことが出来ます。
現時点でも日本では、胃・大腸・膵臓・膀胱・子宮・腎臓・前立腺・肺などの手術に利用されています。
さらに手術支援ロボットは映像の動きをそのまま手術データとして記録できるという強みを持っています。難しい手術であっても、AIが映像と操作記録を学習することで、サポートを行えるようになるかもしれません。
実際に世界を斡旋している手術用ロボット「da Vinci」は膨大なデータを集めるプラットフォームとしての役割も担っており、将来の手術支援AIの開発に役立てられています。
AIとロボットによる完全自動手術は実現するのか?
現在の手術ロボットはあくまでも支援のもので、全く自動ではありません。
しかし近年、AIにロボットアームを操作させ、手術を自動化する試みが行われています。
2016年にAlphabet社(Googleの親会社)は豚の腸を自動で縫合するロボット「STAR」を発表しました。
縫合とは針と糸で組織を縫い合わせる作業です。適切な組織を持ち上げ、適切な角度で針を入れ、ほどけないようにしっかりと結ぶことが求められます。
STARは画像認識と自動縫合アルゴリズムによってこの過程を自動で行うことに成功しました。
縫合という外科医にとっては基本的な技術がやっと達成された状態で、一つの手術に必要なあらゆる技術が自動化されるというゴールを思うと、気が遠くなりそうですね。実現はまだまだですが、手術の部分的もしくは完全な自動化への可能性を感じさせる出来事です。
まとめ
治療の首座は医師や看護師といった従来の医療職が担いながら、手術や投薬などをサポートする存在として、AIの利用が進みそうだという状況がよく分かりました。
また、治療分野以外のAI医療の実例として、「AI医療 ~AI×検査編~」も是非ご覧ください。
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