MaaSへの取り組みは「移動」という巨大産業とそれに伴うビッグデータを握る可能性を有しています。そのため、政府・プラットフォーマー・自動車メーカー・交通事業者の取り組みは加速し、国家の威信をかけた戦いの様相を呈しています。
そんな中、MaaSの実現という点では、1歩も2歩も先を行くのは海外が先を行っているのが現状です。
今回は海外のMaaSの事例を見ていきましょう。日本にも参考になる点が数多くあります。
フランスのMaaS
フランスでは国家レベルのMaaSプロジェクトが始動しています。
LOM法
LOM法(通称:モビリティ法)は2019年に可決された、移動プロジェクトに関する法律です。その内容は「今後5年間で1兆5000万円以上の予算を投じて公共交通や新たなモビリティサービスの推進を行う」というものです。交通投資の4分の3を地域の公共交通や新たな移動サービスの推進事業が占めるという政策の大転換が起こったのです。
その中で具体的に3つの柱を掲げ、実現を目指しています。
- 日常の交通手段に対して多くの投資を行う
- 新しいモビリティサービスを促進し、全てのフランス国民の移動を可能にする
- より環境に優しい交通への移行を推進する
LOM法が目指すのは、フランス国内全土から交通の空白地帯を無くし、自家用車に代わる交通手段を確保することです。
このような国家レベルのMaaS体制によって、全ての交通を一元化した結果、マイカーと同じくらいシームレスな移動を行うことを目指しています。
この国家型MaaSという新しい形を示した点で偉大な先例となるでしょう。
CTS Transports Strasbourg
CTS Transports Strasbourggaはストラスブール交通会社が2017年に提供したアプリです。
最寄りの駅や停留所・経路検索だけでなく、チケット購入や決済までアプリ内で可能です。
利用できるサービスはLRTやバス、地下鉄、フランス国鉄、自転車シェアなどがあり、定期券を買えばそれらが乗り放題になります。年齢や収入でその価格が決まるなど、公共サービスとして市民の足を担っていく取り組みです。
Assistant SNCF
Assistant SNCFはSNCF(フランス国鉄)とルノーが2019年に開始した国レベルのMaaSアプリです。
こちらのサービスも各都市の地下鉄、LRTやバス、地下鉄、フランス国鉄、タクシー、バス、カーシェア、自転車シェアなども利用可能です。
しかし、Assistant SNCFのすごい点はその規模感です。フランスの500都市・人口の70%をカバーしています。
これだけの規模において、一つのアプリで全ての交通がカバー出来る例は大変珍しく、先進的であると言えます。
それが可能になったのは、公共交通を担っていた国鉄とフランス最大の自動車会社のルノーがこのプロジェクトの立役者だからです。公共交通のみでなく、タクシーやライドシェアの分野もカバー出来るようになりました。
ドイツのMaaS
ドイツの首都ベルリンには、地方行政がすすめる地方版MaaSのお手本というべき事例が存在します。
Jelbi(イェルビ)
イェルビは2019年から開始したベルリンのMaaSサービスの名称です。
ベルリン市内で提供されるモビリティサービスのほぼすべてをカバーしており、路面電車・電車・タクシー・地下鉄・自転車・電動キックボード・乗り合いサービスなど12種類以上のサービスが利用可能です。
ベルリンという大都市でこれだけのサービスを展開できているというのは驚きですね。イェルビはカバーしている人工・対象サービス数の点で世界最大の地方版MaaSと言えるでしょう。
イェルビの優れている点はその使いやすさです。スマホでサービスを立ち上げた瞬間から、利用可能な交通手段・駅やバス停の場所・空き状況・価格など、市内の交通サービスが手に取るように把握することが出来ます。
今までのように市内のサービスを統合するだけではなく、市民の足を支えるプラットフォーマーになり、同時に日々集まるビッグデータを使って、地域の交通サービスを改善していく取り組みとして非常に注目を集めています。
スイスのMaaS
スイスのMaaSは非常に進んでおり、MaaSのレベル分け最上級のレベル4に近いのではと言われています。
レベル1・2の達成
レベル1は検索含めた「情報の統合」レベル2はそれに加えて「予約・決済」を一元的に可能なサービスの段階です。
スイス連邦鉄道(SBB)のアプリやサイトでは乗換・検索・決済・予約が一元的に管理可能となっており、他の国のMaaSと同様にこの段階は早々にクリアしています。
レベル3
レベル3は「サービスの統合」の段階で、どの交通機関を選択しても定額乗り放題のサービスが受けられます。
スイスではもともと全土の公共交通の定額制パッケージが存在していました。写真や名前の載っているカードがあり、公共交通版の免許証のような感覚で利用されています。
その状態にプラスして自転車シェアやカーシェアのサービスも開始しており、様々なサービスが統合されたレベル3の段階が既に始まっています。
レベル4
レベル4は「政策の統合」です。国や自治体と事業者が協力することで、都市計画や政策レベルで交通に対してアプローチすることができるようになります。
このレベル4に手を伸ばしているのがNOVAというプラットフォームです。NOVAはスイス連邦鉄道(SBB)が構築たサービスで、スイスの公共交通の全運航事業者が加盟しています。このプラットフォームを利用したSBB Mobileは、300万人以上の顧客を持つスイスで最も人気のあるMaaSアプリです。
アプリ内では全国の鉄道・トラム・バス・フェリーなどのデータが一元化されてるため、全国どこに行ってもシームレスな移動が可能です。
このサービスが他と大きく違う点は、国が政策としてMaaSを利用し課題解決に取り組んだところです。
スイスには険しい山脈があり、限られた土地を有効活用することが求められます。また、トンネルや橋など公共交通を行うにあたっての障害が多くあるという特徴も持っています。
そんな中でスイス政府がとった手法は、各事業者に協力を要請しながらモビリティを設計することです。
利用者目線で、かつ運用側の課題を融合させながら、合理的にモビリティを構築していくこのプロジェクトはレベル4に相当するのではと言われています。
まとめ
ヨーロッパ各国は公共交通が国営化されており、日本のように様々な業者がひしめき合うような状況ではありません。それゆえにサービスを統合しやすく、MaaSレベル3に相当する多くの取り組みが行われているのですね。
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